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□    緑高遊郭もの
インテでこんな本を出す予定。
自己満足の遊郭ものです><






初めて見た真ちゃんへの感想は『なんだコイツ』だった。
だって俺が持ってないもの全部持っているように見えたんだ。
この世界が理不尽で溢れていると俺は充分知ってる。
だからこそ俺はこんなボロボロの状態でここにいて、アイツはツヤツヤの肌で綺麗な着物を着て苦労なんて知りませんって顔で俺を見てるんだ。
本当にこの世界は理不尽で残酷でやってられない。

「高尾どうしたんだい。浮かない顔をしているね」
「んー、なんで?俺は旦那に会えて嬉しいんだけど?浮かない顔に見えるなら旦那が外の景色に気を取られて全然俺を可愛がってくれないからじゃないかな?」
「おやおや、高尾は相変わらず口が上手だ。では、私も可愛い人のために頑張らないと・・・」
「ふふふ。可愛がって旦那様・・・」
俺はそう言うと相手にされるまま身体を開いていった。

これが俺の日常。
ここは扇屋。江戸吉原の中にある見世の一つだ。
この見世で働く遊女の一人が俺。
貧しい家に生まれた俺は口減らしのため幼い頃にここに売られてきた。別段珍しいことではない。
遊女のほとんどが同じような境遇で親に売られてここで身を売っている。
珍しいのはここが男専門の見世ということだけ。
この遊郭でも唯一の男専門の見世。
そして、一番格式が高い。
一流の人間しか受け入れないという楼主の意向でここで遊べる人間は一流と認められた事になり一種のステイタスとなっている。
ボロボロだった俺がここに売られてきたのはある意味奇跡だ。
他の見世なら使い捨てにされ、のたれ死にしてもおかしくない世の中だから。
ここにいる事は他の見世にいる遊女より少しは幸せだと思う。幼い頃からここにいるのだから俺より酷い扱いの遊女だって知っているし、たくさん見てきた。
でもなぜだろう。幸せなはずなのに最近唐突に全てを壊してしまいたくなるんだ。

「へぇ、珍しい。ここで赤司以外でピアノ弾いてる人初めて見たよ」
正月の年中行事であわただしいくしていたのにぽっかり空き時間が出来てしまい、俺は外の空気を吸いに庭に出る途中珍しいピアノの音を聞いた。
興味をそそられ音につられて来てみれば、そこにいたのは初めてみる緑の髪をした長身の美丈夫だった。
彼は俺を見るなり剣呑な目を向けてくる。
「お前は誰なのだよ」
「俺は高尾っての。これでもここのNO.2だよ旦那様。よろしければお見知りおきを」
「・・・俺は客ではないのだよ」
彼の言葉に俺はやっと納得がいった。
ピアノは楼主の趣味の部屋にあり普通の客は基本的にここまでこないし、入れない。
よほどの馴染みか、楼主の個人的な客以外は。
彼の高潔な雰囲気からはこの店の馴染みではないことが伺えたので、彼は楼主の個人的な客もしくは友人なのだろう。
普段なら何も気にしない。
だが俺の直感がこの男を逃がすなと言っていた。
彼の視線をもっと自分に留めておきたい。
彼に見られていると思うだけでぞくぞくする。
もっと彼の事が知りたい。
「ねぇ、旦那様のお名前お聞きしてもいい?」
「・・・聞いてどうする。俺は客ではないと言っただろう」
「別にそんなの関係ないよ。俺が旦那様の名前を知りたいだけ。ねぇ、教えてよ?」
「・・・緑間慎太郎だ」
彼は短く答えた。
初めは冷たく断ったのにもう一度聞くと教えてくれた。無視することだってできるのに。優しい人だと感じると彼の事がもっと好ましく思えた。
「緑間慎太郎、様・・・素敵な名前だね」
彼の名前を俺は噛みしめるようにつぶやく。それだけで胸が高まった。こんなことは初めてだ。
「・・・もう行くのだよ。気が散る」
夜見世の時間も迫っていたので俺は彼に言われるまま素直に部屋を出ていった。
教えてもらった彼の名前を心に刻みつけながら。
名前と楼主の個人的な客ということさえわかれば後はどうとでもなる。

ーーーーーーー逃がさないよ、真ちゃん。

松の内も明けたある日、昼見世と夜見世の空き時間。俺は扇屋楼主の部屋に行きいきなり尋ねてみた。
「なーなー、赤司。緑間真太郎って人知ってる?」
そこにいたのは赤毛で金と赤の瞳を持つ美貌の青年。
吉原一の見世、扇屋を取り仕切る楼主は赤司征十朗と言う美貌の青年だ。
見た目は若いが年齢不詳。彼は俺が五歳で引き取られた時から年を取っていない。少なくとも見た目は。
そして、他者に否やと言わせない絶対的な支配者のオーラを纏っている。
見世の人間は赤司に可愛がられているので滅多にその姿を拝むことはないが。
「あぁ・・・それがどうした?」
赤司が怪訝そうな顔で俺を見る。
いきなり自分の見世の遊女が見世の客でもない人間の名前を言い出せば怪訝な顔にもなるだろう。
「俺、真ちゃんがとっても気に入っちゃったんだよね。紹介して?」
「・・・お前の気持ちは分かったが難しいな。真太郎はここがあまり好きではないし、お前は真太郎の好みではない。そもそも、いつ知り合ったんだ?真太郎はここにはめったに来ないぞ?」
「んー、この間ピアノ弾いてたのを偶然見ちゃって。名前だけは聞けたんだけど時間がなくて親交を深めるまではいけなかったんだよね」
「お前・・・またさぼっていたな・・・」
「夜見世の前だったからさぼりにはなりませーん。とりあえず、真ちゃん来るときは教えてくれるだけでいいよ。後は自分でなんとかするし」
「高尾・・・真太郎に何をする気だ・・・」
「何をって。イタすに決まってるでしょ。ここは遊郭だよ?」
「高尾・・・僕の話を聞いていたかい?真太郎は堅物なんだ。それに滅多に来ないと言っただろう?」
「うん。滅多に来ないだけで全く来ないわけではないって事でしょ?問題ないじゃん」
「・・・そんなに真太郎が気に入ったのかい?」
「うんっ!!」
俺は満面の笑みで赤司に返事した。
「しょうがない・・・高尾が僕に頼みごとをしてきたのは初めてだし一度だけは機会を作ってあげよう」
「マジでっ!!」
「先月高尾は頑張ったからご褒美だ」
「任せて!!そのうち氷室姐さんの売上抜いて一番になってやるからっ」
「あぁ、頼むよ」
赤司は楽しげに笑いながらそう約束してくれた。
そしてーーーーーーーーーー赤司に初めてのお願いをした後、再会は意外に早くやってきた。
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